釣り人のための魚の持ち帰り方

最近友人と釣りを始めた。釣りには、釣れた魚をリリースする釣り自体を楽しむ方法もあるが、私はもっぱら食べるために釣りをしている。であれば、必然鮮度良く魚を持ち帰ることに興味がある。いくつか文献を漁ったので纏めておく。出典は面倒なので書かない(は?)

前提

魚の保存には「こうした方が良い」という目標があり、それに向けて保存法を考えるのだが、相対した主張をする人も居る。そこでまず何を目標にするかを下記に記す。対立意見についても後に纏める。

  • なるだけ死後硬直を遅らせるべき

刺し身にする場合は死後硬直直後が食べごろであるため、これをなるだけ遅らせることが鮮度を長く保つことにつながるとされる。

  • 魚を5-10℃程度に保つ

どうやら0℃付近より多少高いほうが良いようである。おそらく理由は2つある。1つ目は0℃付近であれば死後硬直が早まるため。2つ目は0℃付近であれば魚が氷焼け(部分的に凍る)するため。

  • 魚の深部までなるだけ早く冷やしたほうが良い

魚の体温と保存に適するとされる温度には差があるため、出来るだけ早く適正温度に到達すべきであるとされる。

  • 血抜きをすべき

身に血が回ると生臭くなるとされる。

  • 魚は海水に浸して保存すべき

浸透圧の関係から、魚は真水に当てるべきで無いとされる。

鮮度とは

魚の鮮度を測るにはいくつかのパラメータが存在する。主に使われるのはK値、硬直指数、筋肉破断強度である。

K値は魚の中に存在する物質が時間と共に変化することを利用して、その比率を元に鮮度を表している。一般に単調増加するパラメータであるが、変化途中の物質が旨味であるため、必ずしも低い数値である時に食べごろであるとは言えない。

硬直指数は魚を横にした時にどれだけ垂れ下がるかを表している。一般に生物は死後に死後硬直と呼ばれる硬直現象が起きる。死んだ直後の魚はぐったりとしている(身が活きていると形容される)が、徐々に硬くなっていき、数時間掛けてまた柔らかくなっていく。釣った魚をクーラーボックスに入れていると反り上がるのを見ると思うが、それが死後硬直である。

筋肉破断強度は魚の身を破断するのに必要な力を表している。すなわち、魚の歯ごたえはこれと相関がある。

直感的には硬直指数と筋肉破断強度は相関があるように思われ、実際ある程度の相関はあるのだが、長い時間が経つとその限りではないらしい。

具体的な保存方法

これらの情報を元に私なりに考えた保存法を記しておく。

  • 氷の準備

保冷剤でも良いが、ペットボトルで氷を作っておくと帰ってからすぐに捨てられるので便利。

どれくらいの氷が必要かだが、これは外気温と海水温とクーラーボックスの断熱性能とどれくらいの時間釣りをするのかとクーラーボックスの容量に依存する。クーラーボックスに満杯にした海水を0℃付近まで冷やすことが出来るのを目安にすると良いと思う。シマノのフィクセルライト17Lで大阪の夏に6時間釣りをするなら5L、冬なら3Lあれば十分という見積もりになる。

後述するが、1-2L程度は10%程度の濃度の塩水を凍らせて融点を下げておくと良いと思う。

また、真水を凍らせたペットボトルはぷちぷち梱包材で巻いておくと良い。こうすることにより魚に直接氷が当たらないため氷焼けしない。真水の氷はそもそも比重が水より小さいので海水に浮くが、より浮きやすくなるメリットもある。冷やした水に浮かせてその下に魚を入れておくと落し蓋のようになり便利。

  • 釣り場に到着してからの準備

クーラーボックスの1/3ほどに海水を入れて冷やしておく。塩水を凍らせたものは融点が低いため速く溶ける。海水を5度程度に冷やす専用の氷である。面倒であれば砕いた氷を海水に入れても良いと思う。こちらのほうが速く溶ける。多少海水が薄まるがそこまで気にしなくて良いようだ。温度が下がり次第氷を取り出して血抜き用のバッカンに入れておく。

  • 魚が釣れた時

まず脳の部分にナイフを刺す。もしくは鰓蓋からナイフを入れて脊椎を切る。少なくともこれをやっておかないとクーラーボックス内で暴れるので注意。アジなど小さい魚はいきなりクーラーボックスに入れてもすぐに死ぬので〆る必要が無い。

血抜きはいろいろなやり方があるが、エラの下側をハサミで切るのが簡単かつ効果が高い気がする。脊椎を断ち切った場合はそもそも脊椎に通っている血管が断ち切られるのでエラを切る必要が無い。

エラを切ったらすぐにバッカンに突っ込んで魚を冷やす。魚は死後体温が上がって身が焼けるらしい(多分小さい魚だとそれほど顕著ではないが)。脳が死んでもしばらく心臓は動くので、上手く行けばしばらく放血される。一般に行われる血抜きは心臓の力に頼っているため、釣れてからここまで迅速に行って心臓を傷めないことが寛容である。あまり冷やしすぎると心臓が弱る気がするのでバッカン内の海水は汲みたてかそれより数℃低い程度で良いと思う。夏場は温度が上がりやすいので氷を入れておくと良いが、冬なら何もしないほうが良さそう。

神経締めはある程度大きな魚でないとそれほど効果が無いようなので、ショア釣りしかしない私はまだ手を出していない。

  • 帰る時

魚が浸るくらいに海水を残して捨てると良い。海水を多めに入れるのは魚を迅速に冷やすためと魚を入れた時に温度が上がりすぎないようにするためであり、帰る時にそれをするメリットはない。完全に捨てないのはある程度海水を残すことですぐに温まらないようにするためと、魚に直接圧力を掛けないようにするためである。

氷が溶け切っていたなら海水の上にぷちぷち梱包材で落し蓋をして、その上にコンビニやらで氷を手に入れて載せておくと良い。

本当に5-10℃が適正温度なのか

過度な冷却によって魚は急速に死後硬直をする。これは魚の体温(海水温)と冷やした温度の差が大きいほどに顕著であるらしい。であれば、5-10℃ではなく魚の体温-10℃前後が適正だったりしないだろうか。これは冬場と夏場で適正温度が変わることを意味する。

なお、5-10℃という温度は死後硬直が終わるまでの話であり、捌いてからはチルド室(0℃付近)で保存した方が良い。

本当に魚を真水に当てるべきではないのか?

イカなどは顕著に水っぽくなるらしいが、魚についてはそれほど気にしなくても良いという説がある。そもそも魚は海水より塩分濃度が低いらしいので、海水に氷を入れて若干薄まる程度は問題ないように思う。

本当に血抜きをすべきなのか?

血は旨味であるという主張をする人もおり、焼き魚などであればそれほど血抜きをする意味はないかも知れない。ただ、捌く時に血抜きがしてあれば楽だし、見た目にも綺麗という利点がある。長期に保存する時は必須らしいが、数日程度であれば味というより見た目の差が大きいのではないかと思っている。

破断強度と硬直指数の関係

硬直指数と破断強度は少しズレが有るようだ。私が読んだ資料では硬直指数の高まりに応じて破断強度が上がり、その後硬直指数が高いままにもかかわらず破断強度が下がっていた。これは実際釣りに行った時にも感じた。クーラーボックスから取り出したときは身が反り上がって死後硬直している様に見えるのに、いざ捌くともう身が柔らかくなっている。これは死後硬直後に冷やしすぎて半分凍った状態になっているのではないかと思う。明らかに死後硬直する時間を過ぎているにもかかわらず反り上がっている魚は常温の水に当てるとすぐにくたっとする。

そもそも破断強度は死後硬直と関係なしに単調に下がるらしく、それに死後硬直が合わさることにより単調性を失っている様に見える。

真空断熱のクーラーボックスって必要?

クーラーボックスの断熱性能というのは大凡断熱材に依存しており、発泡スチロール<発泡ウレタン<真空断熱となる。発泡スチロールと発泡ウレタンには実はそれほど差が無いのだが、真空断熱は性能が跳ね上がる(ついでに値段も)。果たしてこれほどの断熱性能が必要なのだろうか。

結論から言えば、外気温と釣りに当てる時間に依存する。長い時間釣りをするなら高性能なクーラーボックスを買う意味があり、そうでないならあまり意味がない。

私の保存方法はまず海水を冷やすことを前提としており、これに必要な負の熱量は外気によって与えられる熱に対して十分大きい。もし海水を冷やさなかったとしても、結局魚はほとんど水を冷やすのと同じであり、夏場に5kg分の魚(25℃程度)を冷やすのに必要な負の熱量は大きい。

しかし、釣った後に一晩泊まるなどであれば話は変わる。発泡スチロールと真空断熱はせいぜい3倍程度の断熱効果の差しか無いが、24時間オーダーであれば魚を冷やす熱量に対して無視できない程度の差になる。

安いクーラーボックスであれば大量の氷を持っていけば良く、労力をとるか値段をとるかどうかという問題である。

また、多くのクーラーボックスは外気温の設定こそあるが直射日光を当てると変わるかも知れない。クーラーボックスに直射日光を当てるとどの程度変わるのか分からないが、真夏に数時間放置するのは無視できない気がする(そもそも照り返しがある分夏のクーラーボックス底面の外気温は50℃とかになるのではないか)。